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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(行ツ)111号 判決

高知市上町一丁目一一番三九号

上告人

公文博忠

右訴訟代理人弁護士

氏原瑞穂

高知市本町五丁目六番一五号

被上告人

高知税務署長

加地淳二

右指定代理人

寺島健

右当時者間の高松高等裁判所昭和五四年(行コ)第九号裁決取消請求事件について、同裁判所が昭和五六年三月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の費担とする。

理由

上告代理人氏原瑞穂の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 環昌一 裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 寺田治郎)

(昭和五六年(行ツ)第一一一号 上告人 公文博忠)

上告代理人氏原瑞穂の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背がある。

第一 原判決は、その理由第一項(二)において「本件売買について作成された売買契約書(乙第一号証)及び立木売買契約公正証書(乙第三号証)には、売買の目的物は野地山及び大森山の立木を伐採造材した素材(丸太)約一万三五〇〇石であること、」「控訴人(註、上告人 以下同じ)は、当面、より有利な条件での買手が見つからなかったため、本件売買を締結したが、これをそのまま履行して取引を終了させると、九九〇〇万円で買い受けたものを五〇〇〇万円程度で手離す結果になって、多額の損失を被るし、野地山及び大森山の立木のかなりの部分が未だ通常の伐採期に至っておらず、これを直ちに素材化するのは不利益であった。」ことを認定しながらも、

(1) 「本件の売買代金は、双方が立会のもとに森林組合が寸検した山元渡しで、素材の樹種、長さ、材径別に、石当たり六〇〇円ないし六六五〇円とし、その前渡金として合計金五、〇〇〇万円を中長商店から控訴人に支払い(但し、そのうち一五〇〇万円は控訴人の債務を中長商店がいわゆる肩代わりして決済)、昭和四五年四月一五日までに受渡しされた石数によって前渡金の過不足を精算すること等の記載があり、いわゆる出石契約であることが明白に表示されている」、

(2) 「右契約書の案文は控訴人が作ったこと、中長商店側は、控訴人から代金を早急に入手したいとして懇請されたため、野地山及び大森山の立木の状況を全く調査せず、控訴人が約一万三五〇〇石は確保するというので、最終的にそれだけの引渡しがなされるものと信じて、本件売買に応じたこと」、

(3) 「これらの事実を総合すると、本件売買は、控訴人が野地山及び大森山の立木を担保として融資を受けたという側面すらあり、契約書上はもとよりのこと、当事者の真意の面からみても、いわゆる出石契約であると認めるほかなく、控訴代理人主張のごとく立木をそれ自体として確定的に売買したにすぎないなどとは到底認め難い。」

と判断し、

(4) 更に、「控訴代理人は、本件売買がいわゆる立木契約であるとし、その理由として一ないし七の事実を挙げているが(原判決二枚目裏一〇行目以下)、いずれも出石契約であるとの右認定を左右するほどのものとは思えない(………)。」

とも判断している。

第二 しかしながら、

一 前項(1)乃至(3)の判断については、

本件売買契約書の案文は上告人が作ったものではなく、これは中長商店側において作成したものであるのみならず、なるほど右契約書の記載内容自体からみると出石契約の形式がとられていることは否めないかもしれないが、さればこそ上告人は本件売買契約公正証書の作成の段階においてその標題を立木売買契約公正証書とすることを要求し、この標題にて公正証書が作成されているものであり(乙第三号証)、右契約書中の………素材(丸太)約一万三五〇〇石との売買物件の記載は、立木売買代金五〇〇〇万円算定の目安としての意味しかないものであり、しかも、トップクラスの木材業者である中長商店が出石契約を締結するのに標題を立木売買契約公正証書などとすることに応ずる筈もなく、かつ、野地山、大森山の立木の状況を調査せずに(伐採期に至っていない若林であったことは契約当時明らかであった)売買契約を締結するなど到底あるべきことではないものといわざるをえないところである。

二 そして、前項(4)の判断中、括弧書の各項に対する判断については、

(1) 一・三の事実は、代金決済がすでに完了していることの証左であって、出石契約なら出材の都度代金支払が行われるべきであり、上告人は全く伐採していないのであるから、本件のような代金支払がなされる筈もないものである。

(2) 二の事実については、課税免れの方法としてとられており、さればこそ、第一審証人香川竹二郎もその証言において否定していないものである。

(3) 四の事実は、本件契約が立木契約であればこそ、中長商店の許諾を要請する必要があるものであり、出石契約であれば、中長商店に引渡す際契約の売買代金に満つる石数が足れば良いのであり、従って、野地山、大森山の立木を殊更に引渡さなくとも他の山の材で充てれば足りるのであるから、右野地山、大森山の立木を他に売却するにつき中長商店の許諾を必要としなかった筈である。

(4) 五の事実は、本件売買が立木契約であったことの証左であって、さればこそ、通俗的な用語を用いたものである。

(5) 六の事実は、本件売買の目的たる立木は、昭和一七年八月乃至昭和一九年五月末日ごろ植栽された樹齢二五年乃至二七年程度の立木であり、樹令が三五年程度に達する筈もなく出石契約がなされる対象物件になりえないものであったことを意味するものであり(なお、別添登記済権利証参照)、事実中長商店は現在に至るまで、大森山の立木の伐採をしていないものである。

(6) 七の事実は、一乃至六の事実を総合して判断した場合、本件契約が当然立木契約であるのに、被上告人が出石契約であると判断するに至った一面の事実を摘示したものである。

以上述べたとおり原判決の認定判断は、事実を誤認したか誤って評価したため、所得税法第五一条、第六九条同法施行令第一九八条の適用を誤った違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわざるをえず速やかに破棄されるべきものと確信する次第である。

以上

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